和英バイリンガル出版企画第一弾
鈴木登美・十重田裕一・堀ひかり・宗像和重 編
『検閲・メディア・文学――江戸から戦後まで』
書誌
定価:4095円版型・製本: 並製、384頁
ISBN:978-4-7885-1284-9
出版年:2012年3月30日
出版社:新輝社
紹介
◆日本における検閲を通史的に論じた初めての試み◆
言論弾圧や禁書は政治権力の歴史とともに古いが、それが高度に組織的になされるようになったのは、印刷術の発達による大量出版とともにです。その徳川時代の歌舞伎・戯作・浮世絵の検閲から始めて、戦前・戦中の国家主義のもとでの強圧的な検閲、そして敗戦後の占領軍による、検閲の痕跡を見せてはならないとする検閲までのさまざまな検閲を取り上げ、いつ、なぜ、どんな法規や制度がつくられ、どんなメディアやジャンルが対象となったか、規制はどのように受け入れられ、抵抗され、記憶され、忘却されてきたかを、ジャンル横断的に通史的に、国内外の学者が論じます。そしてそれを、日本語版と英語版を組み合わせたバイリンガル出版として、世界に発信していきます。
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あとがき
一言論弾圧や禁書は政治権力の歴史とともに古いが、公権力が思想や情報の内容を検査して社会的コミュニケーションを規制する検閲制度が高度に組織化されるようになったのは、印刷術の発達によって大量出版が発展するにつれてのことであった。日本では、十七世紀に出版文化が台頭・発展して以来、江戸期から明治維新を経て第二次世界大戦敗戦まで、そして連合国による占領の終結にいたるまで、政治・経済・社会の形態は大きく変容を遂げながらも、 国家や占領軍による制度的な検閲が続いた。検閲はつねに、競合する価値や情報を抑圧しつつ特定の道徳的・社会的価値ないし知識を強制しようとする、教化やプロパガンダといった統制のもうひとつの形態と表裏一体となって作用してきたのである。
本書は、近世から占領期にいたるまでの多様なメディアやジャンルをとりあげて、日本における検閲の問題を、個別的な事例に即しながら、歴史縦断的かつジャンル横断的に検討しようとするものである。
いつ、なぜ、何を目的としてどのように異なる法規や制度がつくられ、それがどのような機関によってどのように運用されたか。時代によって、どのようなメディアやジャンルが、どのような理由によって検閲の対象となったか。そして、どのようなかたちで検閲が制作者たちに対応され、作用してきたか─規制がどのように受け入れられ、あるいは抵抗され、回避され、記憶され、忘却されてきたか。それによって表現様式やジャンルやメディアにどのような変容がおこったか─といった問題を探究する。また、異なるメディアにおける検閲状況とその対応を検討することによって、それらが複合的に作用していた言説空間・文化空間を理解し、想像し直すことを試みる。そして、特定の時代の検閲制度と実践の場に働いていた、あるいはそれを通して顕現した政治的・社会的状況や、文化の生産・流通・消費のダイナミクスと政治性に歴史的な照明を当て、今日におけるその意味を考えたい。
本書はゆるやかな三部構成をとり、第Ⅰ部では、江戸期の歌舞伎、浮世絵、戯作の検閲から、明治以降の新聞・雑誌・書籍の検閲について、法規や制度の変遷に着目しながら、表現行為やメディアと検閲との応酬を検討する。第Ⅱ部と第Ⅲ部はともに、第二次世界大戦の戦前・戦中の内務省による検閲と占領期の連合国最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)による検閲、それぞれが表現行為や出版文化にもたらした直接・間接のインパクトを、 歴史的・政治的状況の大きな変動および検閲制度の差異と相関性に注目しつつ、連続的に検証することを試みる。第Ⅱ部では戦前から戦後を通して創作活動を繰り広げた文学者を中心にとりあげ、第Ⅲ部では、映画と紙芝居といった大衆視覚メディアと、一般人による短歌や俳句を扱う。各部の冒頭に置かれた解説で、それぞれの部で展開される論考の背景と問題を明らかにし、また、各部の論考と呼応しつつ新たな視点を提起するコラムエッセイをそれぞれの部に配した。
鈴木登美
紹介
早稲田大学国際日本文学・文化研究所 問い合わせ先 新輝社 E-mail : jinno@waseda.jp Tel 03(5286)3705 |