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ワシントン大学(シアトル)より

兼築信行

派遣交換研究員として、2010年4月1日に米国シアトルへ到着、ワシントン大学(UW)のポール・S.アトキンス准教授のもと授業担当と研究とを行なっている。こちらの春学期は3月末開始のため、授業にはやや遅れて加わったが、大学院ゼミを担当するほか、同時期にこちらへ来たJWUのS教授が担当する文語文法の授業にも参加することとなった。

  大学院ゼミ(110分×週2回)では、最初に渡部泰明『和歌とは何か』を読み、くずし字読解を訓練した後、『新古今集』『二見浦百首』『六百番歌合』に各4回を当てて読み進めてきた。それぞれのテクストについて、担当院生による作品概説、クローズリーディング、論文の読解、総合ディスカッションを行なう。受講生が最終ペーパーで取り上げるテーマにも十分な配慮が施されている。ペーパーのアブストラクトのチェック、文献書目の提出と、極めて緻密かつ合理的な指導法が確立されている点、目をみはるばかりである(単に私がズボラなだけかもしれぬが)。

  文語文法の授業(80分×週3回)では、『百人一首』全歌を文法的に読解、25首ごとにクイズまたは試験が設定される。余技としてカルタ取りも行なった。クォーター制(10週)は確かに集中的で、身につくものは大きいが、学生も教員も大変だと感じた。

  また、学術講演の頻度が驚異的だ。春学期にはその傾向が特に著しいよしだが、スタンフォード大学のスチーブン・カーター先生による連歌のお話など、刺激を受けること実に大であった。

  研究方面では図書館の所蔵資料を拝見している。古典籍にあまり古いものはなく、若干の版本が存する程度。日系人から寄贈された未整理本の中に興味深いものが見受けられる。

  文学研究者の端くれとして「邪苦損街」に永井荷風をしのび、パイオニアスクエア辺の古本屋や古美術商を冷やかしたところ、加賀千代女の掛幅を鑑定させられるはめになった。セーフコ球場のライト席にも一度だけ足を運んだ。それから、シアトル日本語補習学校での講演を引き受け、日系個人事業主の方々の勉強会にも招かれてお話をし、当地の諸事情への理解を深めることもできた。学期の終了(6月4日)まで授業を行ない帰国の予定。

(2010年5月21日これを記す)