アジア・プロジェクト 講演会
朴蕙成先生 講演会
韓国における日本古典文学研究・教育の現状と課題―中世文学を中心に―
会場:早稲田大学戸山キャンパス39号館第二研究棟 第5会議室 日時:2010年3月9日 17:00~18:00 共催:早稲田中世の会 |
早稲田大学文学研究科において、日本中世文学を研究する学内学会「早稲田中世の会」と共催で、朴蕙成(パク・ヘソン)先生の講演会を開催いたしました。院生たちによる研究発表会の後、韓国における日本文学研究の規模や研究テーマを中心に、四十分程度の講演と二十分程度の質疑を行いました。講演は始終なごやかな雰囲気で進み、二十名ほどの参加者たちは韓国における日本文学研究の現状について熱心に耳を傾けておりました。
要旨として掲載されたのは以下のものです。
韓国を代表する日本語日本文学関連の学会には「日本学会(1973年設立)」「日語日文学会(1978設立)」があり、各々1300名~1400名ほどの会員数を誇っている。ただし、その会員はほぼ重なっている傾向があり、政治・経済・歴史などの日本学分野にも重きを置いている「日本学会」の方がやや会員数が多い。この両学会を中央学会として、各地方や大学の研究所などを中心とした学会の数が、2010年現在、27以上にも上ると言われている。
今回はこういった韓国の現状を踏まえ、主に「日本学会」「日語日文学会」での論文発表を基本データに、「韓国における日本古典文学研究と教育の現状と課題」をまとめてみることを目的とする。
韓国における日本語日本文学関連の研究、教育は「日本文学」「日本学」「日本語学」の三領域によって進められ、日本文学の研究は一時期ほどの隆盛は見られないものの、日本研究の主軸の一つとして認識されているようです。現在では日本語学へ注目が集まっており、学生のニーズも高いとのことでした。域研究としての日本学も、博士号取得者が現れ、新しい研究領域として存在感を強めているようです。日本文学、日本語学、日本学の三領域が韓国における日本研究の領域ということのようです。
対象とする作品作家について、韓国の日本文学研究では、特に近現代の作家、作品を中心に研究するものが多いとのことでした。
日本中世文学では研究者によって論文数が大きく左右されているとのことです。中古では『源氏物語』を初めとする物語文学の研究が、中世では和歌、軍記などの研究が盛んではあるものの、紀行文など、いまだに開拓されていない研究領域も広く見受けられ、今後の日本古典文学研究の進展が望まれます。
研究方法は日本における実証的な研究方法が用いられることが多く、韓国における独自の研究方法の模索も必要とのことです。
また、韓国の大学における日本文学研究の活動も報告されました。教育に関しては大学で日本古典文学に関する講座の開設数も多くはなく、大学院における博士らの就職の問題なども深刻化しているとのことでした。いづくも同じ秋の夕暮れ、というところでしょうか。
質疑では、日本側の立場から論文データベースに海外の論文を収録する難しさや翻訳の問題などについて議論が交わされ、アブストラクト(要旨)やキーワードなどの選定採択、あるいは保存やデータ化についての問題が残されていることを確認されました。日本側も韓国の研究成果をどのように吸収していくのか考えなければならないようです。
WIJICではこのように他学会とのコラボレーションをしながら、日本文学研究の発信と海外からの提言に耳をすませていきます。
当日のレジュメはこちらからダウンロードすることができます。 PDF