
瀬尾 周平 講師
【略歴】
2018年
早稲田大学大学院文学研究科修士課程
フランス語フランス文学コース修了
2025年
パリ・ナンテール大学
博士課程修了
博士(美学)
──研究内容
アントナン・アルトーという作家について、彼の作品の哲学的受容の歴史をふまえつつ博士論文を書きました。アルトーについて短くまとめるならば、彼は詩人であり、演劇人であり、画家であり、俳優であり、批評家であり、革命家であり、ときにシュルレアリストであり…と、色々なことに挑戦してはそれに失敗するなかで、20世紀の芸術家や批評家に大きな影響を与えることになった人です(とくにドゥルーズ、フーコー、デリダのようなフランス現代思想に興味のある方はよく名前を目にすると思います)。私の研究はこうした文学的とみなされる作家の作品、並びにその影響が、一つの領域から別の領域へと伝播していくとき、例えばアルトーの文学作品が、哲学の文脈に接続されるときに、いったい何が起こっているのかを明らかにすることです。アルトーのような難解な作家のテクストを読みながら、さらに難解なその解釈の歴史を、現代という時代区分に即して理解することはなかなか骨の折れる作業ですが、この研究を通じて文学が私たちの「生」にとって重要な問題として何度も回帰する姿を描き出すことを目指しています。また私にとって重要なもう1人の詩人・画家であるアンリ・ミショーについて研究を進めることは今後の目標の一つです。
──主な著書・訳書・論文
・フォルカー・デース、「道徳とサスペンスの間で」、瀬尾周平訳、『<他者>としてのカニバリズム』、橋本一径編、水声社、2019年、pp. 95-118。
・「身体と傷──アンリ・ミショーとメードザン──」『文学研究科紀要』、早稲田大学大学院文学研究科、第 64 輯、pp. 313-323、2019年。
・「アンリ・ミショーにおける空間の問題についての研究ノート」、『フランス文学語学研究』、早稲田大学大学院同誌発行会、第 40 号、pp. 11-22、2021年。
・「バシュラールとミショー :『空間の詩学』と「実験的な狂気」」、『フランス文学語学研究』、早稲田大学大学院同誌発行会、第 41 号、pp. 17-30、2022年。
──専門以外に興味のあること
他の先生方は「趣味」のお話をしているようなので私も。これまで私もアルトーのように(いやむしろフロベールの小説に登場するブヴァールとぺキュシェのように)、色々なものに興味関心をもち、本気でそれを大事なものだと思いながらも、結局はそれらの間を行ったり来たりしてきました。例えば音楽では、前衛音楽としてのジャズ(ルイ・アームストロング、チャーリー・パーカー、そしてフリージャズとエレクトリック・マイルス)からクリス・ワトソンのフィールドレコーディング、そして鳥を探して森の中を歩き回り、その声に耳を傾けることへ。こうして興味関心が移っていったり、また逆に初めに好きだったものへと回帰したり…
でも結局一番好きなことは、美味しい料理を食べながら誰かと話をすることだったりします。それとサッカーは今も昔も大好きです(フランス代表でお気に入りの選手はカマヴィンガとオリゼ。そしてジダンは永遠のアイドルです)。
ちなみに余談ですが、ピエール・ブルデューというフランスの社会学者は『ディスタンクシオン』という「趣味」についての重要な本を書きました。もしも社会学に興味があって、仏文の教員紹介の「専門以外に興味のあること」を偶然読んでいる方がいらっしゃったら、ぜひ仏文に遊びに来てみてください。
──学生へのメッセージ
フランスという国で博士論文を書いた経験から一つだけ言えることは、人間は1人では生きていけないということです。もちろん時には1人で物思いに耽り、自分のためだけに時間を使うことは大切だと思います。例えば読書をするためには1人の時間が必要でしょう。しかしその時私たちが読む言葉は、「私」だけのものではなく「他者」の言葉でもあります。自分のために使う時間が、そうした「他者」の言葉に耳を傾ける経験へと繋がっている、そんな経験ができる仏文に1人でも多くの方が興味を持ってくださると嬉しいです。