タンタンを聴く、着る、旅する

タンタンが書かれた時代、何人もの歌姫が一世を風靡しましたが、もっとも有名なのはマリア・カラスでしょう。マリア・カラスとカスタフィオーレ夫人の関係などを論じた本もありまして、タイトルは『ビアンカ・カスタフィオーレ、20世紀の歌姫』(Mireille MOONS, Bainca Castafiore, La diva du 20e siècle, Éditions Moulinsart, 2006)。この本では、カスタフィオーレ夫人のファッションについても『マリー・クレール』など当時のファッション雑誌を調べて詳しく解説しています。たしかにカスタフィオーレ夫人ってお洒落なんです。髪型、服、靴、アクセサリー…。タンタンの画風が上品なのはこういうところも関係しているのかもしれません。著者はベルギーの女性でジャーナリストなのですが、タンタンのキャラを通じてクリスチャン・ディオールやココ・シャネルといったフランスのファッションの歴史が見えてくるおもしろい本です。ちなみに日本語で読めるタンタンの優れた解説書としては、『タンタンの冒険 その夢と現実』(小野耕世訳、サンライズ、2002年)が挙げられますが、この本でもカスタフィオーレ夫人のファッションについて少し触れていますから、興味のある方は図書館で調べてみるといいでしょう。

 

ところで、日本は世界に冠たるマンガ大国ですが、ベルギーもマンガの国と言えます。パリからブリュッセルは電車で一時間ちょっとですから、パリを訪れたついでにぶらりと立ち寄れる距離です。まずはブリュッセル南駅からタクシーでマンガ博物館(Centre Belge de la Bande Dessinée)に行ってみましょう。目立たないこぢんまりとした建物ですが(1)、中に入ればヨーロッパのマンガはタンタンだけではないことがわかります。

(1) マンガ博物館の入り口 筆者撮影
(1) マンガ博物館の入り口 筆者撮影

中にある図書室ではフランス語やフラマン語で書かれたマンガを手にとって見ることができます。書店には、グッズの他にヨーロッパのマンガがズラリと並んでいます。レストランもお勧めです。僕が行ったときは、ランチのデザートで色とりどりの小さなケーキが三つ並んでいました。EUのエリートの集まるブリュッセルは美食の町でもあるようです。 腹ごしらえがすんだら、マンガ博物館からグランプラスまで歩いてみましょう。マンガの街だけあって落書きやオブジェが街の雰囲気を盛り上げています(2)(3)。

(2)ブリュッセルのオブジェ 筆者撮影
(2)ブリュッセルのオブジェ 筆者撮影
(3)裏通りのシャッターの締まったお店 筆者撮影
(3)裏通りのシャッターの締まったお店 筆者撮影

 

おしゃれなお店が建ち並ぶパサージュを抜けるとグランプラスに出ます。ヴィクトル・ユーゴーやジャン・コクトーが褒め称えた美しい広場です。その近くには、小便小僧のモニュメントもあります。旅行好きの友人いわく世界の三大がっかりモニュメントの一つだそうです。たしかに小便小僧はがっかりでした。でも、それを聞いて残りの二つも制覇してみたくなりました。ちなみに後の二つはシンガポールのマーライオンとデンマークの人魚姫像だそうです。