タンタンを聴く、着る、旅する

古永 真一

 

中島先生のエッセイでも触れられていましたが、フランス語のマンガについて語る際に『タンタンの冒険旅行』ははずせないでしょう。フランス語のマンガは読んだことはないという人でもタンタンのキャラクターは何処かで目にしているでしょうし、それぐらい世界的に人気のあるマンガだと言えます。最近でもパリのポンピドゥセンターで大規模な回顧展が催されましたし、スピルバーグが映画化するなんて噂もあります。

 

マンガは一度読んでおもしろかったらもうそれでいいのかもしれませんが、その一方でいろいろ調べてみる楽しみというのもあると思います。例えばタンタンはベルギーのマンガですから、ベルギーの文化や歴史を知るきっかけにもなります。タンタンや作者エルジェについて調べてみれば、ベルギーによるアフリカの植民地支配や、第二次大戦のドイツ軍占領下でのベルギーの人々の生活がわかるはずです。

 

日本でもマンガ学が盛んになってきましたが、欧米でもタンタンに関してはすでに多くの研究書が書かれていて、「タンタン学」や「タンタン学者」なんて言葉もあります。例えば、サブキャラにこだわって調べてみると意外なことが見えてきます。タンタンにはビアンカ・カスタフィオーレというオペラ歌手が登場しますが、マンガのなかで彼女がいつも歌っているのは、グノーのオペラ「ファウスト」の宝石の歌。「ファウスト」は日本語字幕つきのDVDも出ていますから、カスタフィオーレ夫人のパフォーマンスと比べてみるとおもしろいですよ。そういえばロッシーニの「泥棒かささぎ」(村上春樹の小説『ねじまき鳥クロニクル』第一部のサブタイトルにもなっていましたね)がオチで使われていた回もありましたし、タンタンとオペラの関わりは意外にあるようです。ちなみに作者エルジェはオペラ嫌いでしたが、タンタンの制作にも協力した親友の漫画家エドガール・P・ジャコブスは元オペラ歌手でした。