リヨンの街歩き
高安 理保(フランス語フランス文学コース3年)
目前に広がるのは、フランス第二の都市・リヨン。リヨン発祥の地、フルヴィエールの丘からの一景です。足元の森の麓には世界遺産の旧市街が、手前のソーヌと向こうのローヌ、双子川の間には新市街が広がり、歴史のグラデーションが空の青さに映えます。この街の魅力は、ピリピリと張り詰めたパリの空気とは一味違う、肌馴染みの良さ。初めてでも何故か懐かしい気持ちにさせてくれる、あたたかい街なのです。そんな心の故郷で過ごした昨夏の思い出を振り返りながら、目で、舌で、じっくり味わいたいリヨンの魅力を、少しばかり紹介してみたいと思います。
●リヨンのミュゼめぐり
リヨンと言えば、映画の聖地。映画の生みの親リュミエール兄弟の生地であり、世界で始めて映画が撮影・上映されたのもこの街です。…ところが、不運にもリュミエール博物館(Musée Lumière)は改装中とのことで、休館していました。しかし、ご安心あれ。リヨンには、映画好きには堪らないスポットがもう一箇所あったのです。それが、兎に角“楽しめる”博物館、ミニチュア・映画装飾博物館(Musée Miniature et Cinéma)です。賑やかな旧市街の通りで一際目立つキャッチーな入口を抜ければ、まるで映画の中に潜り込んだような異空間が広がります。展示されている映画の小道具はなんと300点以上。館内では撮影もOKなので、お気に入りの作品を見つけて自分のカメラに収めてしまいましょう。
圧倒的スケールを誇るのは地下から一階にかけての映画『パヒューム』のフロア。等身大のセットがシーンごとに忠実に再現されており、まるでむせ返るような匂いが伝わって来るようです。順路を行くにつれてじわじわ背中が寒くなるので、夏の暑い日にはぴったり。このフロアを存分に楽しむ為にも、人間の狂気を美しく描いた傑作ホラー『パヒューム』、是非予習してから行きましょう。
上二階を占めるミニチュアの展示フロアも外せません。100点以上の小さなショーケースの中に収められているのは、旧き善きリヨンのワンシーンや、絵本の中のおとぎ話の世界、はたまた日本の禅寺まで。どれも大変精巧に作り込まれているので、写真に収めてみると…あれれ?ここはどこ?私はだれ?…なんて、奇妙な感覚に襲われてしまいます。歴史あるリヨンには、他にも魅力的な博物館がまだまだ沢山あります。リヨンらしさを思いっきり満喫したい方に是非訪れていただきたいのは、ガダーニュ美術館(Musées Gadagne)やギニョール幻想小博物館(Le Petit Musée Fantastique de Guignol)、リヨン織物装飾芸術博物館(Musée des Tissus et des Arts décoratifs de Lyon)。美術鑑賞に耽りたい方にはミュゼ・デ・ボザール(Musee des Beaux-Arts de Lyon)、読書家のあなたには印刷博物館(Musée de l’imprimerie de Lyon)がおすすめです。勿論、時間が許す限り、全部堪能出来ると良いですね。
ちなみに、様々な文化的施設について言えることですが、パスポートは持ち歩き、取り出せるようにしておきましょう。パスポート提示と「Je suis étudiant(e) .」の一言で、割引が受けられることが多くあります。ミニチュア・映画装飾博物館の場合は、通常大人料金9€のところが学生(26歳まで)は6.5€と、かなりお得になります。
●リヨンのおふくろの味
ミュゼめぐりで知的好奇心を満たしたら、何だかお腹が空いてきますよね。そんな時は、街のブションを訪ねて、ホッと一息つきましょう。ブションとは、リヨンの郷土料理(Cuisine Lyonnaise)を提供してくれる小料理屋のこと。お昼時や夕飯時には、美食の街リヨンの名に相応しく、軒を連ねるブションの数々が挙って良い香りを漂わせています。お料理は、ア・ラ・カルト(単品)も選べますが、ここは是非「Menu Lyonnaise」のコースメニューを選択してみましょう。前菜、主菜、チーズまたはデザートの三品が15~18€の良心的な価格でいただけます。
さて、メニューに目を通してみると、前菜のリストの中で目を引くのが、「Cervelle de Canut」。絹職人の脳みそ…なんて、少し吃驚してしまう名前ですが、これはリヨンではお馴染みのチーズ料理なのです。フレッシュチーズにハーブやニンニクなどのスパイスを和えたものに、生クリームを加えて泡立てた、香り高い一品。その見た目や食感(!?)がまるで脳みそのようだと、このような名前が付けられました。リヨンの伝統工芸を支える絹職人さんの朝には欠かせない、まさにリヨンのおふくろの味だと言えます。
また、愛らしい豚ちゃんのイラストからも伺えるように、リヨン料理の特色は豊富な臓物料理にアリ。主菜のリストにズラリと並ぶ臓物料理の中から、「Saucisson Chaud」を選んでみました。これは、極太のソーセージを分厚くスライスして、赤ワインでグツグツ煮込んだもの。その名の通りアツアツで食べ応えたっぷり、満足度の高い一品です。
勿論、リヨンの街中には、お料理だけでなく、ジェラートやクレープなどのスイーツ屋さんも沢山ありますよ。女の子同士でプチグルメツアーなんて企画しても素敵ですね。見た目にもカラダにも嬉しい彩が素敵なリヨンの味覚、是非現地でご賞味ください。