ベルギーでROAD MOVIE

北村 陽子

夏休みに10日ほどベルギーへ行った。去年もフランスから足をのばして5日ほど滞在したのだけれど、今年はあまり日数をとれなかったこともあり、フランスには寄らないでベルギーにだけ行ってしまった。という具合で、最近急にベルギー《デビュー》している私である。

19世紀には、政治的理由でフランスにいられなくなった人たちが、ベルギーへ亡命することが多かった。政治的理由でなくても、フランスが少々しんどくなってきた(というだけの理由ではないかもしれないが)作家や芸術家が、ベルギーへ行った例は多い。

ボードレールは講演&出版などを目論んでブリュッセルに行ったが、まったくうまくいかず、怒り狂い、ベルギーを罵倒する本を書き、ナミュールの教会を訪問中に脳溢血の発作でたおれた。写真家ナダールは、自分の写真の宣伝と、気球を上げるというイベントを携えて、友だちのボードレールに合流。画家クールベは、フランスでいろいろ悪口を言われると、ベルギーでビールを飲んで発散していたらしい。当時ベルギーではフランスの風刺画や挿絵本の海賊版が山ほど作られていて、フランスから逃げてきて怪しい本を企画する出版者もいた。時代をやや下り、ヴェルレーヌがランボーに発砲するという事件を起こしたのは、ブリュッセルのホテル。銃も近くで買ったらしい(ホテルの人は大迷惑ですね)。フェネオン(という人については、私の教員紹介ページ参照)の愛人は、ベルギー人の教師だった。

というようなことは、以前からある程度知ってはいたけれど、それはむしろ現地へ行くという体験をしてから、まじめに調べはじめたこと。ベルギーに注目するようになったのは、私の場合、一本の映画がきっかけだった。ダルデンヌ兄弟の『イゴールの約束』(フランス語の映画。ベルギーはフランス語圏とフラマン語圏にわかれる)。96年にパリで見て、「素晴らしい!」と思った。少年イゴールは、不法移民労働者を働かせてその上前をはねる父の仕事を手伝っている。撮影場所はリエージュの近郊、観光的に美しい街並みなどは、まったく出てこない。ドキュメンタリー調の厳しさを持っているけれど、あくまでフィクションの硬質な映画である。