龍の名前

鈴木 雅雄

 

5年生に上がるとき、僕ははじめて中村**と同じクラスになった。新しいクラスで、勉強にしろ運動能力にしろ、彼は決して目立つ生徒ではなかったと思う。それでも彼が周囲から特別な存在と見なされるようになったのは、超常現象や魔術に関する厖大な知識のせいであったし、とりわけ新学期に入って間もなく「こっくりさん」が流行したとき、狐か何かの霊に教卓の花瓶の花を散らせるよう命令し、それに成功して以来のことだった。

 

知り合いになってみると、たしかに中村**は常軌を逸した小学生だった。決して裕福な家ではなかったはずだが、彼の部屋のガラス棚には高価なタロット・カードが積まれていたし、なぜか日本の警察機構に関する本などを読んでいて、警察もずいぶん悪いことをしているんだよなどと言っていたものだ。あるときは部屋に透明な小型ピラミッドを置き、その中にミカンの皮を入れて観察していたが、何のためかと尋ねると、ピラミッドの四方を正確に東西南北に合わせると中の食物は腐らないことを証明する実験なのだと言う。別の日にはセミの抜け殻集めに付き合わされたが、袋一杯の抜け殻を集めたあとでこれをどうするのかと聞くと、すりつぶして漢方薬にすると風邪に効くという話だった。

 

だが僕が彼と親しくなったのには特別な事情があった。ある日突然、彼は数人の友人を連れて僕の家に遊びに来ると、今日は大切な話があると言う。少し言いにくいことなのだけれど、実は君を含めた僕たち6人の仲間には、竜神様がとりついた。これから僕たちはなるべく一緒に行動し、他の子供たちにとりついている悪い竜と闘うべきだと思う。君がどうしても嫌ならばその自由はあるけれど、できれば協力してもらいたい。

 

だから僕たちは仲間になった。僕は仲間だけの機密事項として6人兄弟の龍神一人一人の名を教えられたが、僕にとりついているのはその二番目の竜だという話 だった。とはいえ僕たちは、何か明確な行動方針を持っていたわけではない。中村**の竜は末っ子の竜で、特別強い発言権を持っているわけではなかったし、何より彼自身、自分からイニシアティヴをとって行動するということを何か下らないことのように見なしているふうだったからだ。だから僕たちは少なくとも週に一度は行動をともにしたものの、これといった成果を上げることはなかった。やがて中学校に上がると6人が三つの学校に分かれたこともあって、全員が揃うことは難しくなったし、僕と彼も、別の中学校に通いながら会い続けてはいたのだが、竜神の話は次第にしなくなってしまった。