フランスのラジオが好きな理由

久保田 静香

 

フランスに行って私がいちばん興味をもったのはラジオでした。フランス語によるラジオ放送です。より正確には、ラジオのフランス語ニュース放送になります。せっかくフランスに行ってラジオでニュースはないだろうという気が自分でもしますが、なぜかこれは本当のことで、かの地で私は、美術よりも音楽よりも、映画や演劇やオペラよりも、ある意味ではおいしいフランス料理を食べること以上に、ラジオに親しんでいました。そしてそれはこれまたなぜか私にとっては、テレビではなくラジオだったのです。無粋もここに極まれり、といった感がありますが、なぜ私がそれほどまでフランスのラジオに魅かれるようになったのかを、この場を借りてお話できればと考えました。

 

 

私が初めてフランスのラジオを耳にしたのは、アンジェAngersという地方都市の語学学校に通っていたころのことで、思えばもう8年前のことになります。その学校の《フランス語聴解》の初回の授業で、担当の女の先生が開口一番、とりあえずこれを聴いてみましょう、と言って流したのですが、聴いてびっくり、その速さといったら!一聴してわかったことといえばそれがフランス語であることぐらいで、いかなる状況で何についてどのような立場の人が話しているかとなるとまるで見当がつかず、話す言葉のスピードにただ目を丸くし、そのとき偶然席が隣になったハンガリー人の女の子と顔を見合わせながら、「terrible!(おそろしい)」と思わず声をあげたことをよく覚えています。「何これ?」「わかった?」「ぜんぜん」等々、世界各国から集まった外国人学生の驚嘆と畏怖と当惑の声で教室が騒然とする中、「フランス・アンテルFrance Intelというラジオ局が今朝流していたニュースのヘッドラインですよ」、と先生がおもむろに、たったいま聴いたばかりのものと比べたらだいぶわかりやすい(おそらくは外国人向けの)フランス語で話し始めました。「みなさんとても驚いているようですが、フランスではこれが普通なのです。最初はたいへんかもしれませんが、そうですね、まずはミニ・ラジオを買ってください。それを目覚まし代わりに朝から晩まで家の中でも外でも毎日聴いていれば、少しずつ聴き取れるようになりますよ」。