あるフランス音楽(?)の話(1)

ジャズについてちょっと触れたので、次はこれを紹介します。Various Artists, Jazzactuel – a collection of avant-garde / free Jazz / psychedelia from the BYG/Actuel catalogue of 1969-1971(Charly, CDNEW137-3, 2000)です。

60年代終わりごろ、アメリカのフリージャズのミュージシャンたちは、ヨーロッパでライヴだけでなくレコーディングも行うようになります。自国では思うように活動できなかった彼らは、ヨーロッパにその活動の場を求めたのです。その際に重要な役割を果たしたレーベルの一つが、フランスのBYGです。上記のCD は、BYGレーベルのActuelシリーズに残された作品から、聴きどころの曲を集めた3枚組コンピレーションです(ちなみに編集にはSonic Youthのサーストン・ムーアが関わっています)。したがってほとんどの曲はフランスのミュージシャンの手になるものではありませんが、フランスと縁が深い音楽であるとはいえます。どこを切っても鮮血がほとばしるような、生々しい熱気を味わうことができます。

また、この時代のフランスでフリージャズを取り巻いていた興奮を追体験するために、フィリップ・カルル Philippe Carlesとジャン=ルイ・コモリ Jean-Louis Comoliの『ジャズ・フリー』(藤井寛・宮下志朗訳、晶文社、1979年)という本を強くおすすめしておきます。この本の原題はFree Jazz, Black Powerといい、もともとギー・ドゥボールの『スペクタクルの社会』を再版したことなどで知られる左翼系出版社Champs libreから1971年に出ているのですが、こんな本が70年代にすでに日本で翻訳されていたというのは驚きです。豊富な資料に当たってフリージャズと黒人運動のかかわりを解き明かしつつ、フリージャズをめぐる当時の言説の隠れたイデオロギーを暴くという、今日のカルチュラル・スタディーズの先駆のような知的作業と、同時代の新たな運動に現在進行形で巻き込まれているがゆえの臨場感が同居する、とてもスリリングな本です。

話は飛びますが、今年エクトール・ザズー Hector Zazouというフランスのミュージシャン/プロデューサーがこの世を去りました。追悼の意を表して、次に彼が70年代にジョゼフ・ラカイユ Josephe RacailleとともにやっていたZNRというグループのBarricade 3(Reccomended Records, ReR ZNR1, 1993)という作品を紹介します。これはもともとは76年に出た作品で、それを出したレーベルが倒産した後、日本では「レコメン系」というジャンル名(?)の元になっているレーベルRecommended Recordsより再発されました。

ザズーとラカイユは、そもそも前衛的なインプロヴィゼーションを中心にしたグループBarricadeに在籍していました。これは音楽などやったこともないメンバーを多数抱え、また「作品を残さないこと」を標榜していたという、まるで「無為の共同体」と呼んでみたくなるようなバンドでした。しかし皮肉なことにというべきか、彼らがひそかに残していた録音が2005年についに公にされています(2)。このグループの解散後に二人が結成したのがZNRで、その第一作が以前のバンド名をタイトルに冠したBarricade3です。デタラメにも聞こえかねないインプロヴィゼーションを展開していたBarricadeから一転して、この作品はサティを思わせるミニマムな室内楽的アンサンブルが基調となっています。しかし、そこにチープきわまりない電子音やエフェクトをかけられた音声がからんできて、優美さとグロテスクさが同居する、とんでもなく奇妙な傑作になっています。

ちなみに、その後ザズーはプロデューサーとしても知られるようになりますが、今度はエスニックな要素を押し出した、ワールドミュージック的なアプローチに赴きます。彼のこうした経歴は、同じく非-音楽すれすれの前衛的ロックから出発しながら、ブラジル音楽のミュージシャン/プロデューサーになったアート・リンゼイを思わせるところがあります。私はザズーのこのあたりの活動はきちんと追っていないのですが、たまたま手持ちの作品で気に入っているSongs from The Cold Sea(Sony Records, SRCS7535, 1994)を挙げておきましょう(ビョークとかスザンヌ・ヴェガとか加藤登紀子も参加してる作品です)。

最後は、時代が進んでちょっとだけ80年代に突入です。Des jeunes gens mödernes – post punk, cold wave, et culture novö en France 1978-1983(naive, NV814511, 2008)というCDです。

今年(2008年)の4月から5月にかけて、パリにあるagnies bのギャラリーで、フランスのポストパンク/ニューウェイヴのシーンをフィーチャーした、上記CDと同タイトルの展覧会が開かれていました。その展覧会のカタログとともに発売されたのがこのコンピレーションCDです。このシーンの中心を担ったのは、Marquis de Sade、Elli et Janco、Taxi Girl、Marie et les garçons、Artefacte、Suiside Roméo、Mathématiques Modernes、Charles de Goalといったバンドですが、このあたりのフランスのシーンは日本ではほとんど知られていないように思います。そもそも90年代中期以降は別にして、それまでは一部のプログレのバンドを除けば、フランスはロック不毛の地だと思われていたふしがあります。それだけに、英米のポストパンク/ニューウェイヴとの同時代性をここまで強く感じさせる音が当時のフランスにあったという事実は、私にもちょっとした驚きでした。

ただしフランスのシーンは、cold waveとも呼ばれるように、クールさというかある種のニヒリズムを感じさせる、日本でいえばノンポリのシラケ世代(なんて言葉が最近の若者に通用するのかわかりませんが)の音楽という側面が強く、ポストパンクとはいえ、例えばGang of FourやPop Groupのような政治的グループは少なかったようです。カタログにはこのシーンのマニフェストともいえる、評論家イヴ・アドリアンYves Adrienが78年に発表した文章が転載されているのですが、そこではクラフトワークやLowやHeroesのデヴィッド・ボウイが引き合いに出されています。事実このコンピレーションには、ある種のSF的ユートピアへの憧憬を感じさせるテクノポップやエレポップ的な音が多いです。